2008.05.08 Thursday
オレタチガ憑イテル その29
冬になると思い出すことがあります。それはわりと最近のことですがまだ神戸の震災の前で、古い家屋が多く残っていた時の頃です。ある日の会社からの帰り道、食事をして帰宅する途上の路地で妙齢の女性とすれ違いました。何だかそわそわしていて落ち着きのない様子が気になりましたが、すぐ傍に警察署もあったのでなにかあったんだろう、くらいにしか思いませんでした。ただその様子が印象的だったのは確かです。なぜそうだったかは後でわかることになります。
帰宅してすぐ、近くの駐車場に停めている自動車の中に置き忘れているものがあったことを思い出し、鍵を持ち着替えることなく再び外に出ました。忘れたものは友人から借りたCDです。何故忘れたのかどうしてその時思い出したのかはわかりません。駐車場から戻る時、ふと信号機のある交差点の向かい側を見ると先ほどの女性が男性とともに立っています。男性はその女性に向かって何か話しているのですが、女性はちょっと困っているようにも見えます。つぎの瞬間、その女性は小走りにこちらに駆けてきました。
通り魔なのか、と身構えた私に、女性は道の向こうの男性が「しつこくつきまとってくるので困っている」と言います。ふとそちらに目をやると、男性はちょっとばつの悪そうな風情でゆっくり立ち去って行きました。見ず知らずの人に暗闇で声をかけられてつきまとわれたようで「すいませんが家が近くなのでついてきてもらえますか」なんて言うので、まあそのくらいいいか、と思ってついて行くことにしました。しばらく歩いて気がついたのはもう寒くなってきているのに薄着です。私は上着を着ていても寒いくらいだったので、もしかするとそういう商売の人なのかとも思いましたが、そんな様子でもありません。
近くのはずなのに暗い道を15分くらい歩きました。「もう近くですか」と尋ねると「もう少しです」と言います。「そろそろ帰らないと」と言うと「困ります」なんて言うので、「もう近くならさっきの人もいないようですし」と告げるとじっとこちらを見ているようです。目を合わせてはいけないな、と直感したので、急いで立ち去ることにしました。周りを見ると意外に遠くまで歩いたようです。ちょっとこれはまずいな、と思って後ろを見るとついてきます。古い家の角を曲がって鉄道の跨線橋を渡った坂の下を見て愕然としました。さっきの女性がいるのです。
悪い夢なら醒めてほしい、と思いましたし、実際かなり眠いので寒空の下でも何だか朦朧とした気分になってきました。そんな中で脇道に逸れたりしながら何とか家に帰ったらもう日付が変わっていました。その辺りは記憶が曖昧です。
この話には後日談があります。震災の直後に近くの小学校に避難していた時、災害用に設置された電話で実家に連絡して教室に戻る時、ふと別の教室の中を見ればあの時の女性がいます。何とも言えない表情でこちらを見ていました。翌日その教室には知人がいたので何となく聞いてみるとそんな女性はいなかったそうです。その話をしながら教室の隅を見るとやっぱりいます。知人に確認する勇気はありませんでした。その後、布団や水を運んだりと忙しくなったので、そのことを忘れることができたのは不幸中の幸いだったのかもしれません。
通り魔なのか、と身構えた私に、女性は道の向こうの男性が「しつこくつきまとってくるので困っている」と言います。ふとそちらに目をやると、男性はちょっとばつの悪そうな風情でゆっくり立ち去って行きました。見ず知らずの人に暗闇で声をかけられてつきまとわれたようで「すいませんが家が近くなのでついてきてもらえますか」なんて言うので、まあそのくらいいいか、と思ってついて行くことにしました。しばらく歩いて気がついたのはもう寒くなってきているのに薄着です。私は上着を着ていても寒いくらいだったので、もしかするとそういう商売の人なのかとも思いましたが、そんな様子でもありません。
近くのはずなのに暗い道を15分くらい歩きました。「もう近くですか」と尋ねると「もう少しです」と言います。「そろそろ帰らないと」と言うと「困ります」なんて言うので、「もう近くならさっきの人もいないようですし」と告げるとじっとこちらを見ているようです。目を合わせてはいけないな、と直感したので、急いで立ち去ることにしました。周りを見ると意外に遠くまで歩いたようです。ちょっとこれはまずいな、と思って後ろを見るとついてきます。古い家の角を曲がって鉄道の跨線橋を渡った坂の下を見て愕然としました。さっきの女性がいるのです。
悪い夢なら醒めてほしい、と思いましたし、実際かなり眠いので寒空の下でも何だか朦朧とした気分になってきました。そんな中で脇道に逸れたりしながら何とか家に帰ったらもう日付が変わっていました。その辺りは記憶が曖昧です。
この話には後日談があります。震災の直後に近くの小学校に避難していた時、災害用に設置された電話で実家に連絡して教室に戻る時、ふと別の教室の中を見ればあの時の女性がいます。何とも言えない表情でこちらを見ていました。翌日その教室には知人がいたので何となく聞いてみるとそんな女性はいなかったそうです。その話をしながら教室の隅を見るとやっぱりいます。知人に確認する勇気はありませんでした。その後、布団や水を運んだりと忙しくなったので、そのことを忘れることができたのは不幸中の幸いだったのかもしれません。
